名刺入れには夢を

名刺入れを頂きました。
イタリア製の上質な革のもの。
洒落たデザインと吸いつくような手触りが気持ちよく、すっかりお気に入り。
社会に出てから丸5年。ずっと使っていた名刺入れがくたびれてきていたので、とても嬉しいプレゼントでした。
私が初めて名刺というものを作ったのは、確か音大を卒業する2ヶ月くらい前のこと。
はなから就職する気はなく、ピアノで食っていく気でいたので、自分を売り込むべく作った名刺だった。「ピアニスト」という肩書がとても歯がゆかった。その時の私はなんにも持っていなかったから。
オペラとバレエの世界でピアノを弾いてなんとか食べていけないか?と考え、関東中のオペラ団体に片っ端から電話した。
普通はこんな無鉄砲なことしないと笑われた。でも何かせずにはいられなかった。
奇跡はおこるものだ。小さいけれど、スター歌手を起用して、良い公演をおこなうことで有名な団体に、私は拾われた。次の公演のピアニストが一人足りなくて探していたところだという。しかもその演目は、私の得意とする(それしか弾けない)「フィガロの結婚」!
これ以上の出会いがあっただろうか。そこのオーディションで、私は生まれて初めて名刺を差し出した。あたたかな眼差しの総監督に。
かくしてめでたく卒業してすぐ稽古入り。
オペラの現場ではあまりにも若い私。プロとして活躍されている方に少しでも近づきたくて食らいついていった。そんな私が目新しかったのか、いろんな方によくして頂いた。今まで客席から見ているだけのスターさんと名刺を交換し、徐々に仲良くなっていった。そして、そこからいろんなご縁が生まれて、仕事が広がっていった。
まだまだピアノだけで食べてはいけなかった私を見かねて総監督は事務局のバイトとしても使ってくれた。
あれから5年。大きな挫折も味わった。
だけどなんとか演奏一本で食べていけるようになったのは、出会った人のお陰。
今まで受け取って頂いた名刺は200枚ほど。
名刺が、縁をつなげてきてくれたのだ。
さて、この新しい名刺入れ、また良い縁を運んできてくれそうな予感がする。
そういうカン、物に対しても人に対しても私は結構働くのだ。
名刺入れに夢をつめこんで第二ステージを歩き出そう。
ということで皆さん、今度お会いしたら名刺交換しましょうね。