松山バレエ団「シンデレラ」

先週土曜日、松山バレエ団「シンデレラ」公演にご招待頂き、

神奈川県民ホールに行って参りました。

音楽とともに

森下洋子さんのシンデレラは、高い精神性と愛溢れるもので、

人は、こんなにも尊く強く生きられるのだ、ということを教わりました。

童話の美しい世界だからではなく、そこには筋の通った哲学があったのです。

プログラムノートより抜粋

『シンデレラは、どれ程悲惨な境遇に追いやられようが、決してくじけませんでした。

その汚れた環境を全く逆さの最良の環境に変え、全てに散らばる事柄に慈しみ溢れる愛情を注ぎ、

そこをとてつもない良き香のする美しい場へと変化させてしまいます。

おおよそわが身に降りかかる事柄は、全てこれを天の命として、謹んでお受けするという、その最善を尽くす絶対的純粋態度こそが、真に自分を生かすことになるのだと、シンデレラは父と母と、この世から学んでいたのです。』

その尊い精神に、私の心まで浄化された気がします。

舞台を観にいくということは、その作品の「気」をもらいに行くことなのかもしれませんね。

また、森下さんの信じられないくらい長いアームスは、この上なく優美で優雅で、

シンデレラの生き様を、饒舌に語っていました。

この腕は何かに似ている…しばらく考えたのち、思い当たりました。

天女の羽衣!!!

風をはらませて、ふわりと舞う。何にも逆らわず、万物に調和し、とても自然で繊細な動き。

それでいて、シンデレラの優しさ、魂の美しさ、ブレることのない芯の強さが表れていました。

なんと心地よく、美しい踊りでしょうか。

私は彼女を観ているうちに、不思議な感覚にとらわれました。

存在が透き通って見えたり、発光しているかのように見えるのです。

まるで、この世のものではないもののようで…。

芸術を、更には人生を極めると、次元が違ってしまうのでしょうか?

さて、プロコフィエフの楽曲は、私がバレエ音楽の中で最も愛するもののひとつで、

一時期は、私のiPodの再生回数ベスト25を独占していたものですが(笑)

奇跡とも言える素晴らしさがあります。

ひとつひとつの楽器が豊かに歌い、幾重にも重なり、綾を生み出し、

大きなうねりを持って、運命の輪が回りだす…。

そこには、圧倒的ドラマ性と共に、宇宙にも繋がる真実味や俯瞰性が感じられ。

この日、客席に座っている私も、大きく心が揺さぶられ、

シンデレラの凝縮された人生を共に生きているような、

そんな臨場感を持って、胸に迫ってきました。

また、清水哲太郎さんのサポートは、たとえ震度20の地震がきたって、

洋子さんを守り抜く、という意志と自信に満ちているように見えました。

舞踏会でのパドドゥは、史上最高のバラードに響いてきて、

真実の愛の美しさ、尊さを、教わりました。

これは、お二人のこれまでの道のり、そして年輪によるものなのでしょう。

このシーン、王子とシンデレラのパドドゥというより、清水森下ご夫妻のパドドゥに見えたのです。

それはそれで、とても素敵で。改めて、夫婦って素晴らしいものですね。

松山版シンデレラの、最大の特徴は、なんといってもラストシーンでしょう。

シンデレラは、憧れの王子様にプロポーズされ、結婚の証として冠を頂くのですが、

それを振り払い、継母と義理の姉の元に走るのです。そこには、大きな愛がありました。

そして、姉たちは、シンデレラの頭に冠を載せ、そっと背中を押すのです。。

そう、実はこのラストの楽曲の題名は「Amoroso(愛)」というのですよね。

おとぎ話のシンデレラは、王子様との結婚によって幸せになりましたが、

松山のシンデレラは、男女の愛のみならず、もっと大きな愛にまで話が及んでいました。

その結果、ホール全体が、舞台と天から降り注がれた大きな愛に包まれていました。

そして、私にとってスペシャルなことに、

終演後、森下洋子さんにお会いし、固く握手していただいたのです!

「ピアノ、素晴らしいですね。がんばってくださいね」

一生分の力をもらえたようで、感無量です。

ありがとうございます。

今回の「シンデレラ」公演、そして、森下洋子さんにお目にかかったことは、

今の私にとって、きっと必然のタイミングであり、必然の出来事なのだと思っています。

この素晴らしい機会を与えて頂いたことに、深く感謝し、

シンデレラの精神を持って、力強く歩いていこうと思います。

音楽とともに

GIFT

私がピアノを弾いているバレエ団の公演に、ゲストダンサーが来日しています。

アメリカンバレエシアターのホセカレーニョ と、英国ロイヤルバレエ団のタマラロホ

一昨年イギリスに滞在していた時、何度かロイヤルオペラハウスに訪れました。

そして、観劇ついでに買ったのが、タマラロホのポストカード。

「ロミオとジュリエット」の美しきバルコニーシーンのものでした。

稽古ピアニストの仕事をしていると、ままあることなのですが、

雲の上だった方が、ある日突然目の前に現れる・・・。何年たっても慣れません(笑)

ご本人にご挨拶し、共に仕事をさせて頂く幸運を、夢のような気持ちで味わっています。

タマラは、小柄なのに踊ると大きく、少女のような清らかさを湛えながらも、大人の深い魅力を併せ持ったダンサー。

ホセは、情熱的で優しい瞳の、包容力に溢れたダンサー。

(私は、生まれ変わったら、ダンサーになってジゼルを踊るのが夢なのですが、

相手役は彼にお願いしたいな 笑)

昨日も今日も、五感が冴え渡っていた私は、

コンタクトをしなくても平気なくらい、視界がクリアだわ、

ピアノの音も立体的に聞こえるわ、メロディーが次々に沸いてくるわ、

ダンサーの息遣いを自分のもののように感じられるわ、、、

いつもとは違う、不思議な感覚を味わいました。

前日の整体で、老廃物を出したのが功を奏したのでしょうか♪

会いたい人に会える、会いたかった人と一緒に仕事ができる・・・。

こういうのは、本当にギフトであり、糧であり。幸せです。

公演は来週金曜に初日を迎えます。

どうぞ劇場 にお越しください。

音楽とともに

Kバレエカンパニー「第九」

音楽とともに

昨夜、Kバレエカンパニー「第九」公演を観てきた。

私は、バレエピアニストの仕事を始めて、10年にもなるというのに、

日本が世界に誇るスター、熊川哲也の舞台を生で観るのはこれが初めてだった。

去年、一昨年と、彼が怪我で降板していた為、なかなか逢いたい人に逢えない状況が続いていたのだ。

「熊川哲也に逢いたい」と呟いた7日後に、急遽幸運が降ってきたキラキラ

(開演3時間前に、急遽観劇を決めたのに、とても良い席を用意して頂けました。感謝です。)

まず、一部は「シンフォニー・イン・C」

バランシンの作品で、1~4楽章を、それぞれ違うダンサーが主役を務める。

カンパニーの主要ダンサー総出演という感じで、ガラ公演のようであり、とても楽しめた。

とりわけ、3楽章を踊った荒井祐子さんが洗練されていて、とてもエレガントで、印象に残った。

休憩を挟んで、いよいよメインディッシュの「第九」。

第九って本当に名曲だな、と改めて感動させられたし、

歓びに満ちた素晴らしい作品だった。

熊川哲也氏は。

カリスマ的オーラに満ちていて、やはり圧倒的だった。

その輝きは、一朝一夕に身についたものではなく、

多くの栄光と挫折を経てこその煌きなのだろう。

今の日本に、芸術の世界に、彼のような存在がいるというだけで、

私のような小さき身にとっても、心底励まされ、力をもらえた。

先日、F.グルダ氏の作品をコンサートで弾いたのだが、熊川氏もグルダと同じく、

伝統を大切にしながら、常に新しい可能性を求めて挑戦していく芸術家なのだろう。

そういう方は、時代の流れの中、どれだけの孤独をも味わっているだろうと、私は思う。

でも、そんな彼だからこそ、世界はあれほどに彼に熱狂し、祝福するのだろう。

使命を全うするべく、懸命に生きることの尊さを教わった気がした。

たっぷりエネルギーチャージ!

さあ、明日からも頑張ろう!

追記:

一点、森麻季の花の如く美しいソプラノが埋もれてしまい、

あまり聞こえてこなかったことは残念だった。

次に上演する機会があれば、マイク(音響)で調整するか、

立ち居地を変えるか等の工夫を図って頂けたら、と思います。

音楽とともに