マイヤリングを弾く

先週、ウィーン国立バレエでは、マクミラン振付「マイヤリング」を上演していました。
このマイヤリング(うたかたの恋)、私は2009年にロンドンで、そして、2010年にロイヤルバレエ来日公演を観た演目。
オーストリアのルドルフ皇太子が愛人と拳銃心中自殺した史実を題材にしたバレエです。
私は今回もオケピの中で弾いてきました。
ピアノが登場するのは終幕のみ。リストの超絶技巧練習曲が協奏曲仕立てに編曲され、クライマックスを彩るのですが、難しさもさることながら、毎公演、「狂気」の気を感じていました。
終幕、破滅へ向かっていくエネルギーがあまりにも不気味で。
ルドルフがマリーを殺す直前、トゥッティでフォルテシモの音楽が減七の和音で突如止まり。心臓の鼓動を奏でる11小節のティンパニソロ、そして拳銃の音。演奏の興奮も相まってその静寂を耐えるのが毎回つらく、心臓がわしづかみにされていました。
この話は此処で起こった出来事。魔物がいるかのような空気。
(余談ですが、最終公演、オケピのなかでいきなり視界が真っ暗になったのです。気づくとピアノの譜面灯が消え、点滅し始めたのです。しばらくその状態だったけど、灯のスイッチを消して弾きました。単なる電池切れかもしれないけど、ただ事でない空気ということもあり、客席にいた知り合いたちはゾッとしていたそうです)
振付のマクミラン氏は、マイヤリング上演中、楽屋で心臓発作で亡くなられました。
ああ、なんだかお祓いにいきたいくらい不気味な公演だった…。
初日の朝、一度だけおこなわれたオーケストラ稽古。
要所要所の確認のみおこなわれ、バレエとは本番で初めて合わせました。

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劇場のバレエスタジオから見える風景。奥に見えるのが王宮の一部。
「マイヤリング」の物語の大半はこの王宮で起こったこと。

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ロイヤルで観たマイヤリングはあまりにも偉大で遠いものだったけど、
初めて観てから5年がたって、この演目を実際に事件が起こったウィーンで、
リアルな空気を感じながら、そこのオケピでこれを弾くことになるなんて。
あの頃の私にこっそり教えてあげたい。
あの頃の自分に会いたくなって、ブログを遡ってみた。
2009年ロンドン「マイヤリング」鑑賞記
2010年ロイヤルバレエ来日公演「マイヤリング」鑑賞紀
あれ、もしかしたら、やっぱり繋がっているのかな。
あの頃の私も心のどこかで感じていたのかな。
2010年のマイヤリングの日記にこんな言葉が。
「恋焦がれるものとは縁があるようにできているんですね、きっと」
「どうして人生は、こんな風に予期せぬところで、寸分の狂いもなく、
パーフェクトに必然的にまわっていくのでしょうか・・・。
最近は、もう「導かれるもの」と心得て、天に委ねる気持ちを持っている私です。」
きっとそういうことなのでしょう。
あの時の私がマイヤリングに出逢って、
そして今、ウィーンでマイヤリングを弾いているように。
恋い焦がれるものと結べる縁を、未来を祈ろう。
ロイヤルバレエの1分マイヤリング動画。ピアノソロの一部も流れます。

ウィーンバレエのマイヤリング稽古&インタビュー動画

Ballet Insight – episode 1 – ‘Mayerling comes home’ from DelbeauFilm on Vimeo.

ウィーンバレエのマイヤリング稽古動画2

Hinter den Kulissen – Mayerling – Teaser from DelbeauFilm on Vimeo.

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世界で一番美しいもの

 

{61CFFA21-2E1C-4C50-90A0-9A69B94905C0:01}2014-15シーズン開幕。3ヶ月ぶりにオケピに帰ってきました。

 

 

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8回弾いたチャイコフスキーピアノコンチェルト。世界広しと言えども、半年の間に8回も同じコンチェルトを弾くピアニストもそうそういないかもしれないですよね…弾く度に音楽の歓びが深まっていくのを感じて。弾く直前のオケピの「気 」で演奏の質が決まってしまうことも毎回味わっています。

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今シーズンの「 アレグロブリランテ」初日、日本人ソリストの橋本清香さんが、怪我したダンサーの代役として急遽主役を踊られました。

5月に私が代役で弾いた時は、4日前の指名だったけれど、彼女は開演2時間前に電話がかかってきて、急遽振りを覚えて真ん中を踊ったのだそう。
(キャスティングされていたダンサー2名とも踊れなくなり、彼女に無茶振りがいったのです)
あまりの事態に皆が心配するなか、やっぱり我らが清香ちゃんは完璧に美しく踊りきったそうで、幕が降りてすぐ、舞台上では彼女への賞賛の拍手がやみませんでした。
バレエ団の窮地をいつも救う清香ちゃん!本当に素晴らしいですね。

さて、今回のプログラムには私のインタビューが掲載されています(自分の言葉がドイツ語で書かれてるの、不思議笑)。

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「 なぜバレエのピアノを弾いているのか」
「 バレエが世界で一番美しいものだと思っているから」

…仕事って、愛。愛しているから、心を尽くせる。

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最終日のカーテンコールで。

清香ちゃんと。

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8回の本番を共にさせて頂いたマエストロ、Pähn氏と。

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この愛おしい時間が私の心に、そして、誰かの心に残っていきますように。

最幸な本番!チャイコフスキーピアノ協奏曲

チャイコフスキーピアノ協奏曲、弾き終えました。
3日前にジャンプインという前代未聞の事態に、たくさんの方が応援してくださいました。
前日に、稽古場に久しぶりにいらした、バランシン財団のナネットさん。
3日前にピアニストが逃亡したと聞いたら、卒倒するかと思いきや、
私をギューッと抱きしめて「貴女が弾くべきだって、私は最初から言ってたでしょ?私は幸せよ」って。…ナネットさま、幸せなのはこちらです(涙)
指揮者が何時間も練習につきあってくださり、たくさんのアドバイスをくれて、
本番前には監督が私の部屋にお花とお手紙を届けてくださって。

この時点で幸せ過ぎて!!
なんだかね、失敗する気が全くしなかったのです。
成功するイメージしかなかった。
そして迎えた本番。もう最高にエキサイティングで楽しくて。
全く緊張もせず、笑顔を止められなかった。
4分に渡るカデンツァではオケの方々が優しく見守ってくれている気持ちも感じて、終始幸せでした。
大好きなオケの方々が周りにいてくれて「ただただ楽しんで」と朝から励ましてくれていました。
カデンツァで一カ所コンテンポラリーになったけど、、、^^;;;
でも、ジャンプインって緊張しないものなのかも。
年始の楽友協会の時もそうだったけど、
緊張している場合じゃないという本能が働くのか、異様なアドレナリンがでるのか(笑)
カーテンコールでは、ダンサーたちも舞台でブラボーを叫んで迎えてくれて!

どうなるかと思ったけど、みんなで乗り切ったね!
無事カーテンコールの瞬間を迎えられたことに感動して涙がにじむ。
ピアニストの同僚には「なんでそんな無茶振りを受けるのか。頭おかしいのか」と言われていたけど、私しか弾く人がいないし、演目を中止にすることもできなかったからね。
終演後、マニュエルルグリ監督と。

歌劇場総裁のドミニクマイヤー氏と。

たくさんの方にお花とプレゼントを頂いてしまいました。
皆さん、それだけ心配して応援してくださっていたのだと思うと、
本当にあたたかく、美しい世界に生きている幸せをしみじみと感じて。
私、いつか死んでも、この人生のことをずっと憶えていたい。
次の本番は6月6日、12日、16日。
来シーズンは10月に4回、全公演弾くことになりそうです。
きっとこの経験は、私のかけがえのない財産になる。
この4日間、あまり寝ず食べず、少し痩せてしまったので、
少しだけ休憩しつつ、また細かく練習し直しながら(暗譜もして笑)、
次に繋げていこうと思います。
ありがとうございました。