ロイヤルオペラ「ペレアスとメリザンド」

英国旅日記 16日目
念願叶い、ロイヤルオペラ「ペレアスとメリザンド」を観にいくことに。
朝6時半にオックスフォードを出て、当日券をとるためにロンドンのロイヤルオペラハウスへ。
この日は単独行動だったので、ちょっとした冒険気分。
こころの音色
10時に当日券をなんとか入手し、心をときめかせながら夜になるのを待ちます。なんだか好きな人とデートする前の気持ちに似ている(笑)
私は数年前、このドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」のコレペティ・稽古ピアニストとして公演に関わったことがあります。輝くばかりの美しさに満ち溢れた音楽に魅せられつつも、その精緻なオーケストレーションをピアノで表現することにとても苦労をした思い出を持っています。(ドビュッシーの「水の反映」あたりのピアノ曲が3時間半続くといえばその大変さを分かってもらえるでしょうか?)人生最大の壁だったように思います。
そんな濃い思い出を持つオペラに、イギリスで再会を果たすことになるとは。人生って分からないものですね。
こころの音色
今をときめくサイモンラトル指揮、そして新演出ということで劇場は満席。
いよいよ開演。音楽が流れ始めた瞬間、目に涙が溢れ、止まらなくなってしまいました。
音楽の美しさ、過去の辛い経験、その時お世話になった方々への感謝の気持ち、
そして今ここにいられることの幸せ、いろんな気持ちがいっぺんにあふれ出してぐるぐるに。
音楽のもつ力のなせるわざでしょうか。
しばらく涙を流しつつも、次第にオペラに引き込まれていきました。
音楽の水準はものすごく高い。さすがはロイヤルです。
演出は超現代演出で、シーンが変わるごとに客席から感嘆の声が。
このオペラの戯曲はメーテルリンク(「青い鳥」の著者)によって書かれていて、
歌詞のひとつひとつにとても深みがあるのです。
私は日本語訳の歌詞が頭に入っているので、フランス語を日本語に同時通訳、
ついでに英語の字幕を読み、頭の中に三ヶ国語がとびかうという稀有な体験をしました(笑)
おもしろい発見もいろいろありましたね。
森の中に深い水がたたえられ、空には星が光り、ペレアスとメリザンドがどうしようもなく惹かれあい、
ゴローは激情の果てに絶望し、アルケルが優しく語りかける。
すべてが耽美的な音楽とメーテルリンクの戯曲に包まれ、オペラハウスを満たしていました。
とにもかくにも、この日のサイモンラトルの指揮とロイヤルオペラ管弦楽団の演奏は、
この世のものとは思えない美しさでした。
最後の一音が消え入り、しばらく無音になったあと、客席はとても静かな深い感動に包まれていました。
日本だったら、拍手で我に返るということが多いような気がしますが、
ロイヤルオペラは舞台と客席が一体化しているような…。舞台の余韻がいつまでもいつまでも残っていました。
朝6時半~夜1時まで、ひとりで外国の街を歩き回り、夜道に迷ったり、危険を感じてビクビクしたり、
外国人差別を感じたり。昼間にはランチコンサートをも聞き、夜には素晴らしいオペラを聞き、
良いことも悪いこともたくさん経験し、すっかり神経が疲弊してしまいました。
魂が傷つきながらも磨かれた。そんな一日だったように思います。
それにしてもサイモンラトルは素晴らしかった。日本に帰ったらこの日の演奏を思い出して、
もう一度スコアを引っ張り出してきて弾いてみようかな。

グリーンホリデーの日

英国旅日記 15日目
兄が合流して、4人家族が揃いました。
ということで、教会の日曜礼拝にでた後、家族でハイキングにでかけることに。
家からテムズ川のほとり(テムズパスという緑道になっている)を歩くこと3時間。
こころの音色
この景色(&川のほとりのパブでのお酒)があれば、疲れも吹っ飛びますね。
こころの音色
イギリス人は休日になると、こぞって自然を味わいに郊外にでかけ、グリーンホリデーを満喫するといいます。
この国の人は豊かに生きること、暮らしを楽しむことを知っているなぁと思います。
そんなイギリス流の生き方は大いに真似したいところです。
ところで、私の兄は昨年文芸編集の仕事を辞め、二つ目の大学建築科をこの春卒業し、
来月から自然再生のための公園を造る(ランドスケープデザインというらしい)会社に就職することになったそうです。
そんな彼が今イギリスの素晴らしき自然・庭園の数々を目の当たりにできたことは幸運なことなのでしょう。
日本もイギリスのように緑を愛し愛される国になりますよう。
こころの音色
(あ、野原に転がっているのは私です。笑)

蜂蜜色のコッツウォルズにて

英国旅日記 13日目
母の所属するニューカマークラブの方々とコッツウォルズに行ってきた。
ちなみにニューカマークラブとは、オックスフォード大学に留学する研究者の配偶者が集まるクラブ。企業の海外赴任で来ているファミリーと違い、研究者は孤独な渡英が多いためだ。いろんな国から来ている人が多く、母はこのクラブをかなり満喫している模様。外国人の友だちもたくさんでき、英語でくだらない電話をかけていることもある(笑)「ヨーコさんの為の留学ですから。僕は内助の功に徹するよ」と父は言う。
そんな楽しげなクラブの面々で今日は隣町までバスツアー。
オックスフォード市内からコッツウォルズはバスで45分ほど。
コッツウォルズはのどかな田園風景が広がる小さな美しい村々だ。
私たちが訪れたのは「ケルムスコットマナー」というマナーハウス。
マナーハウスとは、貴族が郊外に別荘地として建てた邸宅のことだ。
邸宅といっても豪奢なものではなく、自然とともにゆるやかな暮らしを送ることが目的だったらしい。
ケルムスコットマナーは、ウィリアムモリスが友人ロセッティと共に建てた邸宅である。
こころの音色
ウィリアムモリスは日本では独創的な壁紙や布地デザイナーとしてその名が知られているが、
彼は詩人であり、工芸美術家であり、社会改革家であったという。
産業革命に反対し、機械を使わない手作りのアート&クラフトを生涯かけて追究した。
ちなみに彼もオックスフォード大学の出身。
「美しいものに囲まれて暮らしたい」という彼の美意識が隅々まで行き届いた家。
こころの音色
庭の花や木や鳥や虫たち、そして青く広がる空。
あの名作の数々は、それらからインスピレーションを得て生まれたものなのだね。
ガイドさんの話を聞いていて驚いたことが。
それはモリスの妻ジェーンという人のこと。
彼女はオリエンタルでとても魅力的な美女だったらしいのだが、
モリスの友人ロセッティもジェーンを愛しており、このマナーハウスには、
ロセッティとジェーンとモリスの娘2人が一緒に暮らしていたらしい。
妻の愛人が自分の旧友であり、仕事のパートナーだなんて…。
モリスは苦悩しつつも、妻の心のままに、と暗黙で認めていたらしい。
10年近くたって、ようやくジェーンはロセッティとの縁を切り、同時にモリスもロセッティとの縁を切り、
ようやく心穏やかな日々が訪れたという。
ジェーンはモリスを愛していなかったかというと、そういうわけではないらしく、
実際ジェーンは心を尽くして夫の仕事を手伝っていたという。
モリスの60歳の誕生日にも心のこもった見事な刺繍のベッドカバーをプレゼント。
そのカバーには、モリスの愛したコッツウォルズの自然、モリスの愛した言葉「IF I CAN」も刺繍されていて、
彼女の気持ちが今に生きる私の胸にまで伝わってきた。
愛人がいながらも夫を愛し支える。ちょっとマリーアントワネットに似ている?いろんな人生があるものだ。
でもジェーンは美人だからいいかと思ってしまったり(笑)
英国一美しい村とモリスが謳ったケルムスコット。
あぁ、私もこんなところで暮らしてみたい!
ジェーンのように?(笑)
こころの音色